2022-09-11

WEリーグカップ第4節 N相模原 2−2 S広島R

 サッカーには劇的な試合というものが珍しくない。この試合もまさに劇的。84分間お互いに攻め手を欠いたというべきかお互いに良く守ったというべきか、ともかくも得点が生まれない拮抗した内容だった。
 しかし84分にステラ藤原加奈の見事なミドルシュートが炸裂したのを皮切りに最後の10分間で双方のチームに2ゴールづつが入るというそれまでとは打って変わった驚きの展開となった。

 とりわけ最後のステラのコーナーキックからの得点は不思議というほかはなかった。両チームの選手たちがGK福元美穂の前に密集する中、杉田亜未が蹴ったボールは約30度の角度でそのどまんなかに落ちてくる。ステラの選手たちはそのボールを押し込もうと思ったしレジーナの選手たちは弾き出そうと思った。それは確かだろう。しかし結果的には誰もそのボールに触ることができなかったのだ。まるでなにかの意志を持った生命体であるかのようにボールは地面に落ち、弾んでゴールの中に入っていった。杉田亜未のキックが素晴らしかった。それは間違えないのだが、10数人が密集しているにも関わらず誰もボールに触れなかったのはまことに不思議である。 
 



 ただ、こういう不思議な失点があったから勝てなかった、と言えるかというとそうではない。決定的なシーンが2つあった。
 ひとつめは28分、平野優花に広島側右サイドを抜け出されたシーン。たまたま平野がトラップミスをしてくれたので松原優菜が対応に間に合い事なきを得たが、平野のミスがなければGKとの1対1になるところだった。
 ふたつめは、左サイドを松本茉奈加に抜け出され上げられたクロスを中央で杉田亜未に頭で合わせられたシーン。数的不利はなかったにもかかわらず杉田は完全なフリーで、十分に首を振ってヘディングしていた。少し距離があったし正面でもあったのでGK福元もキャッチできたが、もしグラウンダーのクロスだったら強烈なシュートをもろに食らっただろう。
 いずれもショートカウンタを発動された形であるが、こうした守備破綻をなんとかしないといくら点をとっても勝てないということになってしまう。
 最後のワンプレーで不思議なことが起こったのは偶然ではなくて、サッカーの神様が勝つべき内容ではなかったぞと勝点3を取り上げたのかもしれない、そんな気がした。


GK福元美穂5.0守備連係の不備を修正していくことができるか注目したい。
RCB佐山桃子5.559分のピンチは裏返されてからマークの受渡しに失敗してのこと。
LCB中村楓5.0佐山が上がった先を把握していれば杉田をフリーにはさせなかったはず。
RSB松原優菜5.5地味ながら攻守に良い貢献ができている。もっと自信を持ってほしい。
LSB木崎あおい5.0気の所為なら良いのだが、溌剌とした感じがないのでやはり心配だ。
DMF小川愛5.5彼女の展開力はもはや欠かせない。怪我だけは気をつけてほしい。
DMF柳瀬楓菜6.0なんかおしゃれになってきたのか。その余裕でいけばゴールも決まる。
RWG川島はるな6.5守備面での貢献が素晴らしかった。シュートがすべて枠にいけば凄いことになる。
LWG瀧澤千聖5.5今回は危険な匂いがしていた。遠慮はいらないので暴れまくってほしい。
OMF松原志歩6.0やればやっただけの成果が得られている。続けていれば大きなチャンスが来る。
CFW谷口木乃実5.0惜しいシュートがあったとはいえやはりプレーが単純で淡白過ぎる。
OMF齋原みず稀6.0持ち味を発揮することはできていた。もっと速くもっと激しくいけ。
RSB島袋奈美恵5.5出れば必ず活躍してくれている。先発で観たいものだが。
LWG立花葉6.5持ち前のメンタルの強さで決めたゴールだった。チームを救った。

2022-09-09

ハイプレスでWEリーグを席巻せよ

 9月4日の試合のレポートで紫熊倶楽部の中野さんが書いていた。レジーナもボールへの守備をやる方針だとのことである。今までそこがいまひとつハッキリしていなかった。監督も「前からのプレスは意識してやってきてはいる」と語っていたし、試合内容からみてもそれは十分に感じられてはいた。ただどこまでやるのか、どの程度徹底するのかがわからなかった。それが今回は明確になった。やる、のである。そしてその方針に応える決意を表明したのが松原志歩だったというわけだ。
 ハイプレスの徹底は高い効果を生むことは誰もが知っている。どのチームの監督もやりたくてやりたくてうずうずしているに違いない。ただ現在のところWEリーグでハイプレスの徹底を実現しているチームは未だ存在しない。昨年ではINAC神戸が最もそれに近かったが、それでもまだ部分的であり散発的なレベルであった。なので、カップ戦の第一節で愛川陽菜の守備から3点を奪ったのには度肝を抜かれたのである。この動きを見ると今年の神戸は密かにハイプレスを徹底する準備をしているのかもしれない。中島依美を出して脇阪麗奈を獲得したのもそう考えると腑に落ちるものがある。

 もちろん浦和にしてもベレーザにしても中盤の圧は極めて強い。彼女たちは長い長い年月をかけてその連係を練り上げてきて今の地位を築いている。ところがハイプレスの場合、それを裏返されるとその中盤の圧が抜けてしまうリスクがあるので浦和もベレーザも容易には転換できないだろう。その点ではわがレジーナは守るべきものもなければ失うものも少ない。

 ただしハイプレス戦術は選手たちに厳しい負荷をかける。レジーナにそれができるのだろうか。中村監督が1年以上を費やしてまだ本格導入に至っていないということはやはり相当の困難があるのであろう。

 なんと言っても最大の壁は契約の問題なのではないかと想像する。WEリーグはプロリーグだとはいえ、まだすべての選手とA契約を結べる状態にはなっておらず、各クラブともアマチュア契約の選手が少なからぬ数いるということなのだ。それはクラブ側の予算規模の問題もあるだろうが、それだけではなく選手の側もプロ契約を選択できない事情がある場合も少なくないようなので複雑だ。なにせなでしこジャパンのエース菅澤優衣香ですらクラブとはプロ契約を結んでいないのである。とうぜんのことながらサンフレッチェ広島でもこの問題は同じように存在するはずだ。

 プロ契約のない選手は生業を他に持っているのでサッカーのほうの負荷が高過ぎるとそちらに悪影響が出てしまうことが考えられる。したがってクラブ側は選手ひとりひとりの事情や状態をキメ細かに勘案しつつ全体のプランを立案し、そのうえでそのプランを日々のトレーニングに落とし込んでいく必要がある。号令一下、右向け右で、ついてこれない者は戦力外、という単純な図式は成立しない。前回の記事では落胆のあまり谷口木乃実に強い批判をしてしまったがもし彼女がA契約選手でないならこの点で筆者にも配慮が足りず陳謝しなければならないかもしれない。

 こうした事情がいろいろとあるにせよ、チームとしてはともかくもハイプレス戦術に舵を切ったのであるから今回はその実現可能性を見てゆこうと思う。

 

 
 まず最もハイプレス戦術に親和性の高い選手としては柳瀬楓菜が挙げられる。彼女のプレースタイルは高校の時からのものである。おそらく広島の強化部長は彼女の突出した運動量と球際の強さを見て我が意を得たりと手を叩いたに違いない。これこそ近未来の広島が必要とするスキルを持った選手であると。そして本人が広島を選んだのはそこが明確なオファーだったからではないかと思われるのである。ハイプレス戦術では前線の攻撃的な選手による強い守備が求められるわけだが、それだけでは失敗時の大きなリスクを担保することができない。現在の男子チームの好調の源泉はボランチの野津田岳人の運動量とボール奪取がきわめて高いレベルにあるからに他ならない。この存在がないと前線の選手は裏返されることが怖くて強度の高いプレスを敢行できないのである。ボランチでは小川愛も柳瀬のパートナーとしてうまく噛み合っており、この二人の存在で戦術遂行の基盤は十分にあると言えよう。さらに前節では松原志歩がこの二人に加わった。これで層としても厚くなりつつある。島袋奈美恵に関しては今までのところもっぱら左右のウイングで使われているが、このグループに入れてみたい気がする。また内田好美にも適性があるように感じられる。

 次に攻撃陣に関してだが、4月からのレジーナの快進撃の突破口となった選手こそ他ならぬ谷口木乃実であった。その意味で当然彼女には期待がかかる。戦術理解という意味でも彼女が牽引役になれるはずだと思うので、安定したパフォーマンスを発揮できればチーム力は格段に向上する。
 ポテンシャルの高さで言えば川島はるなの右に出る者はなかなかいないだろう。彼女がノジマステラ相模原にいた時代は菅野監督だった。菅野監督と言えば厳しい走り込みをさせることで有名だが、その走り込みで選手全員が青息吐息になっていても川島はるなだけはただひとり平然としていたというエピソードがある。彼女の足元の巧みさと相まってレジーナのスカウトの目にとまったのがその並外れた走力だっただろうことは想像に難くない。彼女がブレークスルーすると大きな戦力になるのは7月2日の記事でも書いたとおりだ。
 その記事の中には瀧澤千聖のことも書いているが、彼女についてはなんの心配もない。まさにハイプレス戦術にはうってつけの選手である。強化部が最初から獲得リストに挙げていたというのも大いにうなずける。中嶋淑乃についても基本的に現状のままで対応できそうである。微妙なのは大内梨央だが、キャラクターとしてはもともと元気印なのでひとたびはまると相当面白いことになりそうだ。その点では炎のドリブラー山口千尋も同様で大いに期待できる。立花葉は予測ベースで少し遠目から行く現状の守備スタイルもなかなか魅力的ではあるが、ボールに対しての守備となると少し転換が必要かもしれない。ただ使い分けができるようになるとプレースタイルの幅が格段に広がるのでトライしてみてほしい。現役の日本代表ならびに代表格である上野真実、増矢理花の両名はそんなことできないなどとは口が裂けても言わないだろう。ということでやれる選手は揃っているのである。あとは実行あるのみで、早く連係の熟度が問題になるところまで行ってほしいものである。

 ディフェンダーについては実はすでに対応が相当進んでいると筆者は見ているのだがいかがだろうか。松原優菜、塩田満彩はフィード力があり、佐山桃子については攻守両面で伸長が著しい。ただ昨年は相手チームのハイプレスによってかなり失点してしまっているので、その対処能力を高めるためにも攻撃陣の対応が急がれる状況だと考える。

2022-09-06

2022-23 WEリーグカップ第3節 S広島R 1 − 5 東京NB

 2022年の第1回WEリーグカップは公式戦とはいえ実のところはプレシーズンマッチである、そう思うほかはない。 
 1−5というスコアに関しては言うべきことはない。植木理子と藤野あおば、この二人が2点ずつ。特に植木の2つのゴールはどちらも見事というほかなく、対応した中村も佐山も為す術がなかった。さすがはA代表のエースと言うべきで絶賛に値するものだった。 

 この試合、上野真実がベンチに入っていない。前日の練習では別メニューになっていたそうなので怪我があるらしい。増矢理花ももう少しかかるという話がある。したがって一応先発はベストメンバーと言えなくもない。
 瀧澤千聖がベンチスタートでトップ下が松原志歩だったのは意外だったが、おそらく練習で成果のあった形なのであろう。その松原志歩は試合開始から猛烈な走りっぷりを見せていたので、後半は瀧澤に交代する予定のように見えた。そしてその頑張りが功を奏しベレーザのビルドアップは機能せず前半は川島はるなが押し込んだ先制点を守って1−0で折り返す上々の展開となった。 
 後半開始早々のコナーキックからの失点と続く53分藤野あおばに決められた失点はチームとして反省してもらうとして、58分の選手交代で川島を下げ、70分で中嶋淑乃を下げたのは何ゆえだったのか。川島は先制点の他にも再三ベレーザのゴールを脅かしており、ここまでの展開の中では得点の匂いを濃厚に放っていた唯一の選手である。その川島をあっさりと下げてしまった。ただそれはまだ理解できる。昨シーズンは後半で川島に交代を出すシーンが多かった。その継続で予定の采配だったのかもしれない。 
 そして70分で中嶋淑乃が下げられる。もちろん代わりに入った瀧澤千聖に不足はない。むしろ出すのが遅すぎるくらいである。問題は中嶋をピッチから失うことの意味である。中村監督は昨シーズン後半、中嶋を徹底的に使った。第19節のINAC神戸戦では両足が同時に痙攣して立ち上がれなくなるほど疲労困憊している中嶋を最後まで代えなかった。冷たいようにも思えたけれど中嶋に交代を出せない監督の気持ちもよくわかったものである。その中嶋をなぜ早々に替えてしまうのか。これを見て筆者は冒頭の感想を持った次第である。すなわちこれはテストマッチなのだと。


 今回は遠慮なく書く。勝つ気があるのなら替えるべきは谷口木乃実だったはずだ。この日の谷口は目を引くようなハードワークもなく、ボールタッチが少なく、プレーが単調でターゲットにもなれないので中盤の選手は前線にパスを出せず、やむなくボールを下げざるを得ないというシーンがしばしば見られた。しかしボールを下げさせられるとそこにはベレーザの名うてのアタッカーたちの網が待っているのである。チャンスは一瞬にしてピンチとなる。
 複雑なテクニックを駆使してDFを翻弄する植木と同じプレーをしろとまでは言わない。しかしほとんどなんの工夫もなくチャレンジもないならピッチに立つ資格はない。他の選手に機会を与えるべきだろう。瀧澤か大内が谷口に代わってトップに入っていたらどんなに期待が持てたことか。

 これぞストライカーというべき働きを見せた植木と前半決壊していた右サイドを建て直した上で自身も2発叩き込んでみせる藤野のベレーザに対し、ブレーキのワントップを残して勢いのある川島とまだまだ走れる中嶋を下げてしまったレジーナ。双方のFWにこれだけの差があれば1−5という結果は必然というものである。しかしこの試合はテストマッチなのでたぶんそこは問題ではないのだ。 

 U-20W杯で一部のチームから主力級の選手が抜かれている状態で始まったWEリーグカップである。グループBでは神戸も千葉もいろいろな試みをしているように見受けられた。だからタイトルを狙いに行くなら絶好の機会のはずだった。それなのにどうしてこういうことになるのだろう。たぶんWEリーグからプレシーズンマッチのつもりでやってくれという通達でもあったに違いない。

 ともかく、ベレーザという難敵に奢りを与えることには成功した。彼女たちが次回広島に来るときはきっと油断たっぷりで来てくれるだろう。レジーナはリーグ戦できっとこの借りを返してくれる、そう信じている。 


GK福元美穂5.0好セーブもたくさんあっただけに残念な結果だった。
RCB佐山桃子5.5プレスに対してのいなし方かわし方は去年とは別人のよう。
LCB中村楓5.0あの二人を止めるのは至難の業なのだがそれができないと勝てないのも事実。
RSB松原優菜5.0大きな破綻はなく前半の優位を下支えしたが、左足は不発気味だったか。
LSB木崎あおい5.5後半は足が止まっているように見えた。表情も優れない様子だったので心配だ。
DMF小川愛5.5入りではミスが目立ったがすぐに良くなった。大黒柱が健在でなにより。
DMF柳瀬楓菜5.5この人がもしいなかったらと考えると目の前が暗くなる。
RWG川島はるな6.0彼女がゴールする試合は勝てない、そんな悪いジンクスができないことを願う。
LWG中嶋淑乃5.5瀧澤と一緒に出るとどんなコンビネーションになるか楽しみだ。
OMF松原志歩6.0新しいサッカーをしようという意欲が素晴らしく効果もあった。続けてほしい。
CFW谷口木乃実4.5いまのままではチームが地獄に落ちる。とにかく工夫をしてほしい。
RWG立花葉5.0シュートの意識が高いのは良い。だがあの時大内の左のポケットががら空きだったのだ。
OMF大内梨央5.0クロスに合わせる以外の武器を獲得できればレギュラーが奪れる。奪ってくれ。
RSB塩田満彩5.0試合展開からして見せ場が少なくなってしまったがもっと大胆にプレーしてもいい。
LWG瀧澤千聖5.0大きな見せ場はなかったがボールロストは少なく連携の企図も見られた。
DMF近賀ゆかり5.0この試合では役割があまりにも難しかった。

2022-07-02

川島はるなの黒船

 なぜ代表に呼ばれないのか、そういう声がある。川島はるなに惚れ込んでいるファンは多い。もちろん私もそのひとりである。でも私は彼女が代表に呼ばれない理由を知っている。代表監督にじかに訊いてみた、わけではない。完全なる推測である。単なる個人的推測ではあるが、おそらく間違っていないという自信はある。

 川島はるなが代表に招集されないわけは協会幹部に嫌われているから、とかではない。もっと単純な理由なのだ。それはフィジカルが弱いからである。体格がでかい外国勢に負けないためには彼女のように小さくて細い選手では戦えないのだ。というと岩渕真奈はどうなのだ、長谷川唯だって小さいぞと反論されてしまいそうである。そのとおり。岩渕や長谷川は川島と体格的にはほとんど変わらない。もちろん国内からの招集メンバの中にも小柄な選手はたくさん存在する。では彼女たちと川島はるなの決定的なちがいはどこにあるのだろうか。ボールコントロールの上手さでは誰にも引けを取らないのが川島はるなである。

 その答えは、自分はフィジカルが弱い、と思っているかどうかというところにあるのだ。もちろん岩渕にしても長谷川にしても自分は肉弾戦が得意だとは思っていないだろうし、冷静に判断すればやはりそこは弱点の一つだという自覚はあるに違いない。しかし少なくとも彼女たちは相手選手との接触を厭わないプレーができる。だが対する川島はるなはその点においてはなはだ物足りないのである。川島には人並み外れた足元の上手さがありプレーのアイディアも豊富にある。なのでガツガツと体をぶつけるプレーを回避しながらでもある程度のことはできてしまう。しかしそのプレースタイルでは代表に呼ばれないのは当然だ。フィジカルではたとえ勝てなくても少なくとも気持ちの上では上回っていてくれないと選抜の対象にはできないわけだ。ただ、代表には呼ばれなくてもチームの中心選手としてならそういうスタイルで十分やってこられた。今までは、である。ところがもはやそんな時代ももう終わってしまった。

 広島に瀧澤千聖がやってきた。川島はるなにとっては太平の夢を破る黒船だ。同じリーグの他チームで10番を背負っていた選手が新加入してきたインパクトは測り知れず大きい。彼女のポジションを予想する中野さんの記事ではもはや川島の名はピッチ上から消え失せているのである。
そして瀧澤千聖が黒船である所以がもうひとつある。サッカーが変わったのだ。黒船はただ単に強いだけではない。黒船の黒船たる所以は世界情勢の変化を象徴しているところにある。その力はもはや個人のあがきなどでは抗うことのできない大きな流れなのだ。江戸幕府による250年間の天下泰平。その中にいた日本人は世界が激変激動していることなど気づかないで夢の中にいた。その夢を突如として浦賀に現れた黒い大きな船団が大砲の音とともに破ったのだった。

 サッカーに話を戻そう。ハイライン・ハイプレス、これがこの春からのサンフレッチェのサッカーである。もちろんサンフレッチェだけのことではない。世界のサッカーがその徹底と完成を図って本格的に競い合いを始めたのが最近のフットボールである。具体的にいえば、攻撃的な選手は相手の守備ラインに襲いかかってボールを奪い取る、これができない選手は試合に出してもらえないのである。どんなに足元が巧くてもどんなにファンタジックなプレーができても、目の前の相手からボールを奪いにいかない選手はダメなのだ。瀧澤千聖はそういうプレーができる、いや、むしろそれが得意な選手である。

 さて、川島はるなよ。目を覚ます時は来た。江戸の海にあらわれた黒船を見て日本人たちはみな震え上がりこぞって奴隷になったか。そうではなかった。新しい時代を切り拓くべく猛烈な攘夷倒幕運動が巻き起こったのである。

 川島はるなよ、君はどうする。いさぎよく瀧澤千聖にポジションを譲ってサブにおさまって満足するか。それとも接触プレーをなるべく避けてきたプレースタイルをかなぐり捨てて新しいフットボールの体現者になるか。どちらかだ。後者の道は険しい。凡百の者には絶望的な選択かも知れない。でも君はファンタジスタ、サッカーの申し子だ。君のテクニックがあれば球際の魔術師にだってなんにだってなれるはず。そしてその地平が開けた時、今まで叶わなかった夢が叶うに違いないのである。

 

 

 この映像を観るとこの歴史的な試合の立役者が誰であったのか改めて気付かされる。黒船に大砲を撃ちまくらせるためにも川島はるなの飛躍は絶対に必要なのだ。

2022-06-24

WEリーグを失敗させるわけにはいかない

 
2021-22 Yogibo WEリーグ入場者数
クラブ動員数順位
神戸315841
大宮227889
浦和213242
東京NB168803
千葉136994
広島123306
長野117507
仙台117335
埼玉1038511
新潟95738
相模原955512
平均17160-

 これは2021-2022年度の各クラブごとの年間観客動員数である。戦慄する。大宮の動員数が多く仙台が少ないことを除けば順位との相関関係が強く感じられる結果である。大宮はスター選手が多いのでそのぶん人気があるのは納得できるところだ。仙台については少しさみしい結果だが、武田菜々子選手の弁によると東北出身の選手は数少ないとのことなのでそうした地域の事情が動員数に反映しているのかもしれない。繰り返しになってしまうがこの2チームを除けばほぼ成績順になる。やはり観客を集めるには、勝ちまくるしかないのだろうか。いや逆に勝ちさえすればお客さんは入ってくれるのだろうか。そこで気になるのが東京NBの数字である。東京NBの総動員数16880人は平均の17160人をやや下回っている。これは実に深刻な事態だと思う。 

 東京NBがホームで使うスタジアムは西が丘である。屋根がないので雨の日には弱いもののサッカー観戦には理想のスタジアムと言っていい。東京という人口ボリュームのある地域のど真ん中で交通至便の専用スタジアム。そしてそこで試合をするのが女子サッカーを牽引し続けてきたクラブ、東京NBである。首都圏のサッカー少女たちがこぞってセレクションを受けるのがこのクラブなのだ。浦和や神戸も力があるとはいえやはりこのクラブが日本の最高峰であることに異論の余地はないだろうと思う。当然ながらチームも強く、代表経験のあるトップスターたちが集っている。観客を集める上で有利な条件が揃っているのだ。そうした背景を考えればリーグ戦の順位が何位であっても観客動員だけはずば抜けていて不思議ではないのである。しかし現実は3位という成績順位と相当する程度の動員数しかない。これが何を意味するのか。おそらく来年度、東京NBが勝ちまくって優勝したとしてもおそらく飛躍的な数字にはならないのではないだろうか。つまり16880名というこの数字の内訳は現役プレーヤーの身内・関係者がほとんどであって、一般のファンはほんの少ししか存在しないのである。チームが勝ちまくった結果その少しのファンが倍になったところでそれは年間通した延べ人数で数千人程度にしかならない。残念ながらこれがWEリーグの戦慄すべき現状なのである。 

 云わずと知れたことではあるが筆者は東京NBの運営や経営が悪いのだと主張しているわけではない。他のクラブもみな同じ、わがサンフレッチェ広島レジーナとてもちろん例外ではない。要するに女子サッカーはまったくと言っていいほど注目されておらず、世間から完全に置き去りにされているわけである。この状況を続けていれば数年後は撤退するクラブが相次ぐような事態にもなりかねない。 

 動員数1位の神戸は、5月14日の第21節、国立競技場を使って12330人を集めたが、その8割が招待客であったと噂されている。そしてこのことでINAC神戸を批判したり嘲笑したりする向きもあるようだ。もちろん8割が招待客などという状態は異常であるし、それでよいなどとはとても言えたものではない。しかし、なにはともあれ今はとにかく世間の耳目を引くことを考えなければならないのだ。だからがんばって12330人を集めたINAC神戸には拍手を送りたい。そしてわが広島もそれに続こう。この魅力あるWEリーグを失敗させるわけにはいかないのだから。

2022-06-13

瀧澤千聖選手が完全移籍加入

  このニュースには驚いた。びっくり仰天とはこのこと。改めて言うまでもなく瀧澤千聖はAC長野パルセイロ・レディースの主力選手である。
 もちろん嬉しい。大歓迎だ。能力的には文句のつけようがなく即戦力であり、そのうえ才能的にみれば日本女子サッカー界全体でも注目の集まる最大級の逸材といっていい。それはすでに美しいとはいえまだ蕾。その巨大な潜在能力が大輪の花を咲かせる時を世界が固唾を飲んで見守っている、そういう選手だ。

 ネット民のあいだでも当然のことながら好意的に受け止められてはいる。ただ、補強ポイントはそこではない、という意見もあるのである。確かにそうかもしれい。上野、谷口、中嶋、川島、立花、島袋、山口、大内、そしてもうすぐ怪我から復帰するであろう増矢、とそれぞれ特長は違っても攻撃的な選手は起用するには事欠かないのが現在の状態。だから優先順位としては守備的な選手をまずは入れたいところである。強化スタッフはなにかを間違えたのだろうか。もちろんそうではない。開幕戦で増矢を失ってからの得点力の不足はまことに深刻だったのだ。そして後半戦開始からは無得点で4連敗を喫して、もはや無策でいることが許されない事態となってしまった。おそらくこの時期からフロントは得点力アップを目指して補強を行うべく猛烈な活動を展開し始めたに違いない。そしてその成果が瀧澤千聖の獲得だった。しかしあに計らんや。そういうフロントの水面下での努力を知ってか知らずか、チームは真っ暗なトンネルを抜けて素晴らしい見晴らしの舞台へと出たのであった。そういう意味でフロントは、チームが劇的な大成長を遂げるという未来予測を見誤ったのかも知れない。だがそれは神のみぞ知る事であったはずで、嬉しい誤算なのだ。いやむしろチームがいずれは苦境から抜け出すことがわかっていたとしてもそれに保険をかける動きをするのがフロントの役割なのであって、すばらしい仕事をしたわけである。いずれにしろ来期はさらにチーム内の競争にエネルギーが加わることになり、大いに楽しみである。

 しかし本来であれば主力級の選手を補強するからにはやはり主力選手の放出・流出があるのだろうとする見かたができる。そうなると瀧澤千聖選手とかぶるのはポジション的にもプレースタイル的にもまずは中嶋淑乃だ。やはり中嶋がどこかに引き抜かれてしまうのかと不安にもなる。だが本人からは残留宣言が出ているようなので、当面その心配はしなくてよいらしい。そうなると次には上野が危ぶまれる。ストライカーの不在に悩むチームは多いので上野にはさぞかしオファーが殺到していることだろう。だがなんとかもう一年くらいは広島にいてくれないだろうか。いまはそれを祈るのみである。
 また長野については五嶋京香選手の移籍も伝えられている。瀧澤千聖もそのことは知っていただろうと想像するとその胸中の複雑な思いが察せられて余りある。だがきっと瀧澤選手であればそういう辛い思いもフットボールへの熱に変換できるだろうと思う。
 先にも書いたが長野とは来年も鎬を削る間柄でありたいと切に願っている。この点では長野を離れる選手たちと気持ちは同じなのである。

2022-06-06

パス23本で生んだ、ベストゴール

  【みんなで選ぶベストゴール!】がWEリーグのホームページで開催されている。
 一般視聴者に投票権があり、「いいね」の数で大賞が決まるというので、ぜひ皆さん「いいね」で投票して欲しい。

 今期全24ゴールの中からこのゴールを選んだのはクラブだとのことである。以下がそのコメント。

クラブからのコメント▼
チームで取り組んで来た形で、相手の出方を窺いながら、流れの中で複数の選手が絡み、パス23本、約1分20秒間、相手に触らせずにゴールを奪えた形なので選びました。  


 このクラブからのコメントを読んでみなさんどんな感想をお持ちだろうか。私は何回読んでも思わず目頭が熱くなる。
 そうなのだ。これがレジーナの魅力なのだ。
 ビルドアップにこだわり、GKから最前線まで美しくパスをつなぐスタイル。それがレジーナのサッカー。
 たくさんの選手が絡み、みんなで勝利を掴み取る。それがレジーナの連帯。
 相手に触らせもしないような圧倒する展開を目指す。それがレジーナの強さ。
 そして全員が同じ気持ちになる。それがレジーナの共感。
 
 もちろん簡単にできることではない。事実、ビルドアップを狙われてたくさん失点もした。相手チームはどこもみな強く圧倒などさせてはもらえないどころか、ともすればこちらが圧倒される試合も多かった。
 しかし、それでもあきらめずにやり続けた。その結果はどうなったか。それが第17節以降の爆発である。その爆発の中でこのゴールが生まれた。まさにベストゴール。パス23本で生んだ、これぞ誇るべきベストゴール。