2022-05-23

2021-22 Yogibo WEリーグ 第22節 ■ S広島R 1−0 AC長野


 前半の終了間際、長野の三谷沙也加が負傷退場してしまった。これがこの試合のターニングポイントだった。
 前半は長野のハイプレスの強度がともすると広島を上回っており、双方ともに前線にボールを入れることができない展開となった。もし最終ライン付近でボールを奪われたら即失点のピンチになる。観ている側もヒリヒリするような恐ろしく緊張感の高い試合展開である。前節は大車輪の活躍を見せた小川愛がこの長野のハイプレスのため攻撃面で機能しなくなったのは衝撃だった。小笠原監督の術策にはまってしまった感があり、もはや絶体絶命なのかと青ざめたのである。カメレオンサッカー恐るべし。
 しかし38分、長野ゴール前の攻防で三谷沙也加が足首を痛めて負傷交代となる。広島の選手との接触ではないように見えたがどうなのだろう、いずれにしろ大事がないことを祈るのみである。そして程なく0対0のままハーフタイムとなった。
 後半が始まってこれまた驚くことになる。両チームともハイライン/ハイプレスのガチンコ対決だった前半とは打って変わって、双方が改めて相手の出方を探り合うかのような慎重な姿勢をとっている。両チームとも選手交代はないのに、これはどうしたことか。前半戦があまりにも激しい戦いであったがゆえに肉体も精神もスローダウンを求めたということかも知れない。しかし振り返ってみると三谷選手の退場以降はお互いが攻め込みあってチャンスを作るようになっており、それまでの均衡が崩れ始めていたとみることもできよう。三谷に変わって入った八坂芽依もハイプレスのハードワークはしっかり行っていたのだが、戦術の理解度や表現においては三谷に及ぶべくもなかったのか、そこはよくわからない。
 しかしともかく、長野のハイプレスが緩んでくれば、小川愛が自由に活動できる。小川が自由になれば柳瀬楓菜が輝きを増すのが今のレジーナだ。結果、押し込んでいく展開が増え、長野はロングボールに頼らざるを得なくなった。かくして大勢は決して、上野真実の頭の上にリフレクションのボールが落ちてくるという理屈では説明の難しい不思議なゴールが決まった。


 前回対戦は第9節、0−1で広島リードの90+2分に五嶋京香、90+3分に瀧澤千聖がゴールしてまさかまさかの大逆転。絶望の雰囲気が漂っていた長野Uスタジアムは一瞬のうちに歓喜のるつぼとなり、広島は眼の前が暗くなった。なぜこういうことが起こったのかは未だによくわからない。そして今節のこの展開である。それぞれその時点でのそれぞれの実力がそれぞれの結果を招じた、のかもしれないし、もはや実力に差はなく単なる運命の悪戯なのかも知れないが、どちらにせよ前節の新潟と同様、来期の対戦がどういう展開になるのか、楽しみでしかたがない。

GK福元美穂6.0長野にほとんどシュートを打たせないというみごとな結果を導いた。
RCB佐山桃子6.5股抜きを狙われて抜かせなかっただけでなく機転の効いたプレーが随所にみられた。
LCB中村楓6.5長野の決定機をブロックしたのみならず正確なフィードでチャンスメークもしていた。
RSB松原優菜5.5やはり左足のロングパスはこのチームにとって大きな武器だ。
LSB木崎あおい6.5ワクワクさせてくれる木崎あおいが戻ってきた。あのシュートが決まっていれば7.0。
DMF小川愛6.0前半は消えていた時間もあったが彼女が活きればチームが活きる。
DMF柳瀬楓菜6.0危険なミスもあったがそれを上回ってあり余る活躍。
RWG川島はるな5.5気の毒だが期待値がぶち高いのでその分評価点が常に下がってしまう。
LWG中嶋淑乃6.5再三のサイド突破もさることながら守備貢献度がとても高い。
OMF上野真実7.0得点王が取れるかもしれないという緊張を突き抜けたゴールだった。
CFW谷口木乃実5.5ポストプレーはどんどん上手くなっている。あとはフィニッシュするのみ。
RWG立花葉5.5目立つシーンこそなかったが可能性は感じさせてくれた。守備も良かった。
RSB塩田満彩6.0ロングスローからシュートの一連のプレーは見事だった。ロングシュートも打ってくれ。
LWG島袋奈美恵5.5時間は短かったが、中嶋の代わりに出ても遜色ない働きが期待できる。
DMF近賀ゆかり5.5この人が出てくればもう大丈夫という気にさせてくれる。

2022-05-17

2021-22 Yogibo WEリーグ 第21節

新潟 2 ー 2 広島

  残念ながら守備陣に厳しい点数になってしまう。もちろんGK福元を始めとした彼女たちの頑張りがあってのドローなのはわかっている。しかしながら前回対戦の第4節にやられた相手、道上彩花にまたしてもやられてしまった。しかも2ゴールもされたのはやはりいただけない。  センターバックの二人が彼女を見ておらず松原優菜がたったひとりで対応せざるを得なかったのが1点目。これがあったにもかかわらずまたしてもフリーでヘディングされた2点目はリーグ屈指のストライカーに対する警戒が不足だったと言わざるをえない。
 左のライン際でボールを持った道上選手に対して寄せていった広島側がボールを奪おうとしてなかなか奪えず最後は5人掛かりで取り囲んでようやく奪い取るというびっくりするシーンもあった。まさに敵ながら天晴というほかないが、それ以上に油断は大敵なのである。

 ただ先に書いたように成長過程にあるこのチームには波がある。この試合まで第17節以来5試合好調と緊張を続けてきたのだから疲れも出る頃だったと想像できる。最高点で波を平坦化できればTOP3と激烈な優勝争いができるようになるのはここへ至る5試合で証明されたので、その頂きへ向かって前進していって欲しい。

 この試合、勝ちを落とした試合ではあったが、いろいろな点で楽しめたゲームではあった。
 新潟は上尾野辺めぐみを左のウィングバックに入れてきた。広島の右サイドである。このサイドには川島はるながいる。川島はるなに自由にチャンスメークされてはたまらないというシフトだろうと思う。そしてこれが的中して新潟は中盤、特に左サイドが厚くなった。それをみた中村監督は、後半から川島と松原を交代させ立花と塩田を入れてきた。川島も松原も決して悪くはなかったが、選手の鮮度を上げて相手の策を裏返そうという意図が読み取れた。すると村松監督も動く。それまで左の低い位置にいた上尾野辺めぐみを前線に配置替えする。お互いが相手の裏をかいていこうとするベンチワークが実に興味深かった。個人的には川島はるなのファンタジックなプレーをもっと観たいのであるが、こういう事情なら仕方がない。
 またこのカード、不思議なものがある。前回対戦と今回いずれも引き分け、得点者も同じ、さらに得点経過も似通っている。道上彩花、広島にとっては天敵である。が、新潟の人々もまた上野真実を天敵だと思っているに違いない。来年はどのような決着になるか楽しみである。



GK福元美穂5.0佐山へのホスピタルパスとかあのシーンとかミスが目立ってしまった。
CB
中村楓5.5ゴロリ対策を頼みたかったのだが……残念だった。
CB
佐山桃子5.5攻撃参加がたくさん見られて新しい可能性を示した。
RSB松原優菜5.5悪くはなかったがこの試合では守備陣に甘い点数はつけられない。
LSB木崎あおい6.0結果も残せた。だけどもっと躍動できるはず。
DMF小川愛7.0レジーナ・トラ・レ・レジーナ! 彼女がいなかったら負けていた。
DMF柳瀬楓菜6.0パフォーマンスは下がっていない。好調は一時的なものではないようだ。
RWG川島はるな5.5途中交代は残念だったが、はるなシフトをとられては仕方がない。
LWG中嶋淑乃6.0中嶋対策をとってきた新潟だったがある程度はかわせていた。
OMF上野真実7.0シュートだけでなくいろいろな技を見せてくれた。覚醒は本物か。
CFW谷口木乃実5.5前線からの守備は相変わらず良いがボールタッチを増やしたい。
RWG立花葉5.5守備に注目していたが今回はやや不発気味。全体とのシンクロ?
RSB塩田満彩6.0股を抜かれためぐさんが呆然と君の背中を見ていた。
LWG山口千尋5.5チャンスは作ったが少し空回り気味。焦らなければ必ずゴールできる。
CFW大内梨央5.5時間が短い。もっと長くプレーするには何が必要かを掴んで欲しい。

2022-05-14

近賀ゆかりの大きさ

 オルカ鴨川はさぞかし彼女を手放したくなかっただろうと思う。近賀ゆかりはチームの顔なのである。中嶋淑乃にも戦力的には残ってほしかっただろうが、その意味では一介の若い選手に過ぎず、女子サッカーに関心のない人にとってみれば無名の人だという他ない。しかし近賀ゆかりはそうではない。彼女の名を知らない人でもW杯の優勝メンバーだと聞かされれば「ああ、あのときの……」となるのであり、とたんに見る目が変わってくる。鴨川は地理的な不利があるためこういうインパクトのある「顔」がどうしても必要なのだ。しかし近賀ゆかりになってみれば、現役選手である以上、プロリーグが発足するとなればそこに活躍の場を求めるのは当然だったに違いない。内心は忸怩たる思いもあっただろうと想うが鴨川を離れるのは已むを得なかった。 

 「顔」が欲しいという点では初年度の広島とて同じで、世間の耳目を引かなければ成功することができない。しかもその「顔」となる人が未だに現役選手だとなれば、チームの軸にもなれ、強化としても申し分なく、これ以上望むべくもない人材である。広島に来てくれたことに心から感謝する。そして彼女は「顔」としても選手としても大活躍をしてくれている。 

 私の認識は以上のものだった。しかしこの動画を観て彼女についての見かたが変わった。9分36秒からの数秒間である。


 積極的にアカデミーの選手たちの中へ入って彼女たちを表舞台に連れてくる、この姿を見て彼女の偉大さが初めてわかった。何気なく、ごくふつうに、日常的な雰囲気でこれができることが、このチームの雰囲気をどれだけ明るくしているか、計り知れない。 

 この日この時、近賀ゆかりが彼女たちに声を掛けなければ、彼女たちはトップチームの選手たちとともに同じ目線、同じ興奮の中ででメインスタンドを見上げることはない未来になっていたかもしれない。彼女たちはこの日ボールパーソンを務めた。その仕事は誰も注目しない裏方の仕事である。その裏方が裏方のまま家路につくのか、それともトップのプロ選手たちと一緒にメインスタンドへ挨拶したことを思い出しながら眠りにつくのか、その差はとてつもなく大きい。

 アカデミーについてはまた別に書きたいが、早ければ4年後、遅くても6年後にはアカデミーからトップに昇格する選手が生まれてくる、この映像を見てそう確信したのである。

2022-05-09

地獄の3月から大逆転の5月

 中断期間での補強が成功して格段にパワーアップしたエルフェンは脅威だと思っていたので、ここまでの完勝になるとは驚きだった。
 交代で入った立花と島袋が大活躍してくれたあたりはチーム全体の好調ぶりを表している。うまくいっているチームはいじりたくない。しかし先発以外のメンバも使いたい。しかもそれが一人や二人ではなく、ゴロゴロいる。さらに途中出場の選手がこれだけの結果を残したとなると……どうすればよいのか。中村監督の嬉しい悲鳴が聞こえるようである。


GK福元美穂5.5エルフェンのFWに寄せられてもむしろ引きつけるような落ち着きぶり。
DF中村楓5.5守備陣としては仕事が少ないほうがいいのだがその分評点が上げにくい。
DF佐山桃子5.5可能性のあるフィードがあった。もっと見せて欲しい。
RSB松原優菜6.5自分で上げたクロスを自分でゴールする左足には保険を掛けたくなる。
LSB木崎あおい5.5調子は上昇傾向だがまだ精度にむらがある。もっとやれるはず。
MF小川愛5.5好調レジーナに欠かせない存在だがミスからピンチを招いたシーンもあった。
MF柳瀬楓菜6.0やはり攻守に貢献度が高い。1ゴール取れればさらにブレークできるかも。
RWG川島はるな6.0ボール奪取に行くチャレンジが増えてきた。でもまだ能力全開状態ではない。
LWG中嶋淑乃6.5判定で1点損をしたが冷静でいられるメンタリティーが素晴らしい。
OMF上野真実7.0攻守に大車輪。決定力が急上昇。この調子を持続できれば……
CFW谷口木乃実5.5あのシュートは枠に行ってほしかった。難しいけどクリアしたい課題。
RWG立花葉6.5ゴールもさることながら予測の効いた守備が素晴らしかった。
RSB塩田満彩6.0破壊力を感じさせる見事なフィードを出していた。続けて欲しい。
MF近賀ゆかり5.5クロージャーとしての役割はしっかり果たした。
LWG島袋奈美恵7.0途中出場としてはこれ以上ない大活躍。次は先発で観たい。
OMF大内梨央5.5元気なプレーぶりは好感が持てるが、もっと貪欲にガンガンいくべき。

2022-05-08

山口千尋のかげがえのなさ

  サッカーはメンタルスポーツだと云われる。プレーヤの微妙な心理が試合の運びにそして結果に重大な影響を及ぼす。
 4/29と5/4に行われた対神戸の2連戦はそれを如実にものがった。
 4/29はキックオフから25分で広島は3点を失った。広島は相手が強いと意識して試合に入り、神戸は弱い相手を叩こうという意識があった。この心理の差が試合の流れを一方的にした。このままワンサイドゲームになり今シーズン最悪の試合になるのかと思われたが、33分小川の高い位置でのプレスに連動して谷口と柳瀬がボールを奪ったあたりから、雰囲気が変わり始める。広島側は、やれる、と思っただろうし、神戸は、意外としぶとい、と思ったろう。以降試合が終わるまで広島が攻めに攻めた。その後どうなったかはすでに書いたとおりである。5/4の同じ組み合わせの試合では神戸にはいいところが殆どなく、広島の勝利となった。もちろん神戸に戦力ダウンがあったわけでも広島が補強をしたわけでもない。両チームともほとんど同じメンバーの試合であったわけだが、心理や意識がいかに重大な影響をもたらすかをこの2試合は示してくれた。

 話は半年前に遡る。開幕第2節、広島はホームで初のリーグ戦となった仙台戦である。
この試合、前節の試合中に前十字靭帯を痛めてしまって増矢理花が欠場している。増矢がいない広島は堅い守備の仙台に対してなかなか有効な攻撃ができない。対する仙台の攻撃も単調な感じで必ずしも調子が良いようには見えなかったが、43分隅田凜が左から上げたクロスがするっとゴールの隅に吸い込まれてしまう。ここから仙台は少しずつエンジンがかかり53分に追加点が入る。ホーム初戦でなんとか勝ちたい広島は果敢に攻撃を仕掛けるがなかなか決定機が作れない。
 63分、柳瀬に代えて谷口を、川島に代えて島袋奈美恵を、中嶋に代えて山口千尋を広島は投入する。この3枚替えの用兵が見事に効を奏した。3人が連動して動き回ることでペースは一気に広島に傾き、怒涛の攻撃が始まるのだ。

 63分島袋からのボールを谷口がポストプレーで落としそれを小川が左の山口に展開、山口がツータッチでシュートしたボールはゴールの右隅を掠める。

 そのゴールキックを拾った山口のボールを上野が上げて谷口がヘディングでオンターゲット。

 65分山口がクロスを上げ谷口がヘディングでこれも枠内。

 67分ハーフライン付近で上野からもらったボールを山口がスルーパス。反応した谷口のシュートがまた枠内。さらにそのゴールキックを山口が奪って上野につけるとシュートはクロスバーを叩くすさまじい勢い。

 給水タイムで高平美憂を入れたこともあり仙台はプレスを強めることに成功する。が、それでも広島は強引に攻撃を続行。

 81分山口がドリブル突破に成功してクロス、82分今度は島袋が右翼でドリブル突破。

 87分山口と木崎で左をえぐってコーナー獲得。

 仙台にはA代表の巧者たちがたくさんいるが広島の気迫が彼女たちのミスを誘っているように見える。だがしかし広島はどうしても仙台のゴールを割れない。そして無常のロングホイッスル。

 試合が終わってロッカールームへ引き揚げる選手たちの最後尾で、 山口千尋が泣きじゃくっていた。悔し涙であることは判る。最初のホームで勝てなかったことで泣いているのか、これだけの攻撃をしても得点できなかったことが悔しいのか、はたまた同じような位置から打った相手のクロスはゴールになって自分のシュートはゴールにならないという皮肉な対比が悔しいのか、それは本人に訊かないとわからない。いや、きっと本人に訊いても整理のついた答えなどは得られないだろう。ただ、この試合で最も力を発揮して最も強い輝きを放ったのは他のだれでもない山口千尋だ。その山口千尋がひとり泣いている。

 レジーナのドリブラーはと問えば、いまや多くの人が中嶋淑乃の名を挙げるだろう。確かに中嶋のドリブルは成功率も高く観るものを魅了する。だが中嶋とは異なるタイプのドリブラーの名前も忘れないで欲しい。それは感情というガソリンを燃焼させて突破をしてゆく炎のドリブラーだ。

 普段の取材に応える彼女の印象はおしとやかな感じのかわいい女性である。それを思うと、2021年の春、プレシーズンマッチでゴールを決めたときウサギのように飛び跳ねて喜んだ姿を思い出す。あのかわいい姿とこの仙台戦で見せた気迫のドリブルとその後の泣き顔と、それぞれはどんな心で繋がっているのだろうか。

 たぶんその心は、真っ直ぐで素直な心、なのではないだろうか。ゴールが決まって喜ぶ天真爛漫な心。それがかわいらしい仕草を生み、自分たちを観に来てくれた大勢のお客さんたちの前で勝ちたい素直な気持ちが30分間の猛攻を生み出し、そしてそれが成就しなかった悔しさが真っ直ぐに溢れ出して涙になった。きっとそういうことなのだ。この動画を見ていただければ筆者のこの推測が当たらずとも遠からぬものであることがおわかり頂けると思う。


 人間にはいろいろな感情や心があるけれど、素直であること真っ直ぐであること純粋であることが最も大きなパワーを持つのは疑いないところだろう。

 類まれな心、強くて真っ直ぐな心を持った炎のドリブラー、その存在は目には見えない力でチームを強く牽引する。レジーナにとってかけがえのない存在だ。

2022-05-07

柳瀬楓菜について

 藤枝順心高校で二年連続全国制覇を成し遂げた10番のキャプテンが、広島へ来てくれた。それを想うだけでもう胸がいっぱいになる。
 なぜ広島へ来てくれたのか、それはわからないが、きっと他のクラブからもオファーはあったはずだ。その中には相当有力なクラブもあったことだろう。でも君は広島に入ってくれて、そして瀕死のチームを救ってくれた。第17節の相模原でのことである。


 誰もが口にするその豊かな才能。けれども彼女を最初に観た時に私は特別なものは感じなかった。なんという不明か。恥じ入るほかはない。しかし今、彼女の身体をよく見れば判る。神様と呼ばれた男ディエゴ・マラドーナにそっくりなのだ。顔は似ていない、いや仮に似ていたとしても顔は関係ない。身体である。その特徴はここでは敢えて書かないでおこう。そういえばかつてサンフレッチェにも似た体格の選手がいた。前田俊介だ。僕らはその天才を未だに諦めることができずにいる。
 そんな彼女にはひとつ不思議なことがある。彼女がスルーパスを出す時、あるいはボールを奪いに行く時、その足が突然長くなるのだ。ピロピロ笛のように、長くなる。こんなへんてこな選手は見たことがない。前田俊介の足だって別に伸びたりはしなかった。

 最後に少し残念なことを書かねばならない。たぶん来年のリーグ戦で彼女は今と同じようにはプレーできない、ということだ。各チームは必死になって柳瀬楓菜対策をしてくるからだ。それを怠るチームは間違えなく広島にやられてしまう。だからどのチームも必ず柳瀬楓菜を研究する。その結果、彼女は厳しいスランプに陥ることだろう。そうなればレジーナもまた停滞の時期になる。でもかまうものか。今年と同じように新しい自分を獲得すればいい。そうすればまたブレークできるのだ。より大きく、より強く。

なぜサンフレッチェ広島レジーナを好きになったか

 元々カープファンであった。たぶんそこからスポーツはともかく広島推しになった。高校野球もラグビーもゲートボールも。
 そして紫色が好きであった。それも少し薄い色の藤紫。
 1993年Jリーグが始まった時、当然広島に注目した。おお、なんて美しい色のユニフォームだろう。ひと目でファンになった。運命の導き以外の何物でもない。
 そして2020年、.WEリーグができると聞いた。しかも広島がチームを新規に立ち上げると云う。前々からなぜサンフレッチェ広島は女子チームを作らないのか不思議に思っていたのだ。レッズもベルディもアルビレックスもあるのにサンフレッチェにはなかった。それが少し寂しかった。だからようやくかと思ってちょっと調べてみたらアンジュビオレ広島との絡みがありそうなのが少しだけ判った。仙田社長の話も動画で観た。ほかのクラブの社長さんたちよりも自分の言葉が多かったような気がして嬉しかった。
そうこうしているうちに2021年になり、やがて春が来た。プレシーズンマッチをYOUTUBEで観た。ジェフ戦である。
 右サイドから出たクロスがCFの脇腹をかすめて飛んでいく。ミスキックか思いきや逆サイドの選手の足元にピタッと収まった。フリーで打たれたシュートはゴールになった。ビックリした。度肝を抜かれた。そしてシビレた。そのアイディア。その技術。まさにファンタジスタのなせる技。
 選手の名前は?! 川島はるな。



 あとでこのゴールのシュートを決めた#14の選手の喜びかたがかわいいと話題になっていた。そこでもう一度シーンを観なおしてみると、おおっなるほど、これはかわいい。でもこの時はまだ山口千尋を知らない。彼女のことが好きになるのはもう少しあとのことになる。

内田好美の才能

  チームは第17節の相模原戦をきっかけに好調に転じた。4/29にはINAC神戸と激闘を演じた末破れはしたものの、5/4にはその神戸にリベンジを果たす結果を得た。リーグ戦終盤になってようやく安定感が出てきたと言っていい。もちろんこれは喜ばしいことであるのだが、良いことずくめかというとそうでもない。先発メンバが固定化してしまうという負の側面があるのだ。実際、ホーム初勝利のあとメインスタンドへ挨拶した時のベンチ外メンバーの表情は複雑だった。彼女たちの表情はマスクでよくわからないものの、試合に出たメンバと同じ晴れやかな顔つきをしている者は少なかったように見えた。

 ここでひとりの選手をピックアップしたい。#24DF内田好美である。
 後半戦が始まってチームは4連敗を喫してしまったが、この暗黒の連敗街道の中で鮮やか光彩を放ったのが右SBで先発出場した内田好美であった。
 鋭く精度の高いフィードを盛んに繰り出し、精力的に上がっていってチャンスメークする姿は独特のリズムを持っており、攻撃面で破壊力の高さを感じさせた。プレシーズンマッチにも前半戦にも出場機会がなかった彼女を後半戦に入って初めて見ることができた私は、中村監督はいよいよ秘密兵器を出してきた、と本気で思ったのだ。それくらい彼女のインパクトは強かった。
 初めて小野伸二を観たときの衝撃、初めて森崎和幸を観たときの衝撃、それに近いものを感じたのだ。巨大な才能を持つものだけが与える衝撃。それを内田好美は持っている。
 ただ、如何せん、チーム全体のパフォーマンスが良くなかった。サイドバックとしてはできることが少なかったかも知れない。その意味でチーム全体が停滞している時に出ることになった巡り合わせは不運というほかない。
 監督は当然彼女の能力を高く評価しているはずだ。だからこそ満を持して彼女を後半戦最初の仙台戦に起用したわけだ。だから彼女が先発で出た三試合のうち一つでも勝っていればほんとうに良かったのだが、運命の悪戯か、残念ながらそうはならなかった。チームとして結果が出ないとすれば、まだフィットしきれていないという判断が成立してしまうものなのかも知れない。
 しかし内田好美よ、あるいは出場機会が十分でない者たちよ、どうか腐らないで欲しい。サンフレッチェのスカウトは超の字を付けても足りないほど優秀だ。君たちはその優秀なスカウト陣に嘱望された結果いま現在広島にいる、そのことを忘れないで、チャンスをしっかりと手繰り寄せて欲しいのだ。

谷口木乃実の成長

 このチームの特徴は「波」なのではないか、と思う。 

 第1節の対エルフェン戦は鮮やかな勝ちっぷりで世間を驚かせた。しかし第2節、まだ動きの良くない仙台に敗れるとそのあとさっぱり精彩がない。やはり増矢理花が戦線離脱してしまったダメージが大きすぎるのかと思いきや、第5節で昨年のチャンピオン浦和に逆転勝利してまた大興奮。

 これで波に乗るかと思ったが、そのあとまた勝てなくなり、第9節のAC長野戦ではアディショナルタイム最後の30秒で2点を失い勝点3が0になった。 

 その後のリーグ戦はいいところなく前半戦が終了。もうダメかと思ったが意外にも12月24日の皇后杯4回戦で波に乗る仙台に快勝してくれたので、リーグの後半戦に期待が膨らんで年を越した。 

 しかし後半戦が始まってみるとチームが壊れたかと思うようなありさまで4連敗。これ以上負けるとほんとうにチームが壊れてしまって、シーズン終了を待たずに監督解任もあり得るかと青ざめて臨んだ第17節相模原戦だったが、今度は胸がすくような完勝。


  続く第18節は前半戦で大敗を喫した相手大宮アルディージャVENTUS。どうなることかと思われたが、またまた快勝。ようやくホーム初勝利の歓喜。 

 このジェットコースタのようなアップダウンぶりは増矢理花が第1節で大ケガをしていなくてもきっとたいして変わらなかっただろう。やはりチームが若いのだ。

 選手の平均年齢ではどうなのかわからないが、チームとしては結成足掛け2年目、文字通りゼロからのチーム。だから個々の選手たちもそれぞれ存分に個性を発揮できる環境なのかもしれない。選手たちの個性が感じられるその姿は観ていて楽しい。心が踊る。いままで広島に関心のなかった人たちもレジーナを観るといつのまにか好きになるようだ。

 川島はるなのファンタジックなチャンスメーク、中嶋淑乃の独特なドリブル、小川愛のキックや展開力、立花葉のスピード、島袋奈美恵の躍動感、上野真実の落ち着き払った動き、などなど挙げていけばきりがない。こうした個性の発露がうまく噛み合った時、波は増幅して驚くほどの高さになる。けれども波には谷がある。それが自ずと成績に反映してくるのにちがいない。

 

 しかし前半戦では、こうした個性豊かな選手たちの中でひとり地味な存在がいた。谷口木乃実である。

 開幕以来中村伸監督はこの選手を重用してきたが、わたしにはその真意が解らなかった。その良さが掴めない。結果もさほどは残せていない。率直にいうと、いないよりはいい、くらいにしか思えなかったし、この程度なら他の選手を出させてあげれば良いのにとさえ思っていた。 

 ところが、である。チーム崩壊の淵にあった第17節相模原戦での彼女は違った。ボールを持てば勝負を仕掛けて、しかもその勝負に負けていない。ポストプレーも巧さを見せ中盤へのサポートも効果的だった。意外だった。新しい発見をしたと思った。 

 そうしたら第18節ホームの大宮戦での爆発である。半年前の地味すぎるFWの背番号13は別な選手に交代したのかと思うほどの変わりようであった。DAZNの解説を担当した大竹七未氏をして「なでしこJAPANの監督に観て欲しい」と言わしめるこの成長、これがサンフレッチェ広島レジーナというチームが持つ底力なのだろうと思う。後半戦開始からの4連敗はその産みの苦しみだったか。 

 谷口木乃実と同じタイミングでブレークした選手がもうひとりいる。その選手についてはまた別に書きたいが、この成長力こそがこのチームを高みに導くはずだ。今シーズンはまだ固まらないグラウンドの上で若いエネルギーがダイナミックに波打った。それが不安定な成績にもつながった。しかしこのチームは巨大なものを生み出しつつある、谷口木乃実の成長をみてそれを確信するのである。

2021-22 Yogibo WEリーグ 第19節

 「『もうやりたくない』そう思うくらいに叩いておきたい」4月29日の第19節を前にしてINAC神戸のある選手はそう語ったと伝えられている。
それは5日後の5月4日に予定されている第11節の繰延べ試合を念頭に置いた発言である。この言葉が出てきた背景には、直近の2試合、第17・18節の広島が予想外の良い勝ち方をしているということがあっただろう。さらには、前半戦の第5節で広島は王者浦和に劇的な逆転勝ちをしたこと、さらにはそれを皮切りに浦和が3連敗のドロ沼にはまったことがあったかもしれない。
 広島は強いチームではない。15試合が終わってまだ4勝しかしていないのである。そういう弱小チームを相手にしてのこの言葉は少し調子が強すぎる。『もうやりたくない』と思うほど叩く必要がある、のは、そうしないと危険だから、なのであうか。つまりここまで無敗を誇りWEリーグ初代女王の栄冠をほぼ手中にしているチームをして胸に一抹の不安感を起こさせる、そんな存在がサンフレッチェ広島レジーナだということなのだろうか。
 
 そして4月29日第19節の結果はどうだったか。3−2でINAC神戸レオネッサは勝利した。だが果たしてレオネッサは広島を『もうやりたくない』という気にさせるほど叩くことができただろうか。結果は逆だった。『もうやりたくない』と思ったのは神戸の方だったのだ。


2021-22 Yogibo WEリーグ 第11節

■ S広島レジーナ 1−0 INAC神戸レオネッサ

結果が出る、とはこういうことなのだろう。おめでとうレジーナ。
感動的で歴史的な勝利。

                                                                          
GK福元美穂6.0素晴らしい安定感。木稲瑠那はこの壁を超えて行け。
DF佐山桃子5.5シンプルにプレーして危なげなかった。クレバーな判断も光っていた。
DF中村楓6.0この試合でも貢献度は非常に高い。MVPに推す声もあった。
RSB松原優菜5.5プレーが安定してきている。球際も強いところを見せていた。
LSB木崎あおい6.0久々にキレのいいプレーぶりが戻ってきた。残り試合暴れまくってほしい。
MF小川愛6.5配給、ボール奪取、ポジション取りでINACの中盤を上回った。見事。
MF柳瀬楓菜6.5好調持続。近賀ゆかりが持つ10番はいずれ彼女に受け継がれるのかもしれない。
RWG川島はるな5.5あのシュートが枠に行けば6.0だった。試合の入りは緊張で硬かった。
LWG中嶋淑乃7.0得点も良かったが守備での貢献が素晴らしい。広島の宝。移籍しないで欲しい。
OMF上野真実6.5得点こそなかったもののINACの中盤を最後まで機能させなかった。
CFW谷口木乃実6.5あの山下にフィードミスをさせるあのプレーぶりがチームを勝利に導いた。
RWG立花葉6.0縦への突破は相手に予測されていたが、でもその上をいっていた。
LWG山口千尋5.5彼女のメンタルの強さがチームを引っ張っているのは間違いない。
OMF大内梨央5.5彼女が入ってくるだけでチーム全体が元気になるような気がする。