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2022-06-13

瀧澤千聖選手が完全移籍加入

  このニュースには驚いた。びっくり仰天とはこのこと。改めて言うまでもなく瀧澤千聖はAC長野パルセイロ・レディースの主力選手である。
 もちろん嬉しい。大歓迎だ。能力的には文句のつけようがなく即戦力であり、そのうえ才能的にみれば日本女子サッカー界全体でも注目の集まる最大級の逸材といっていい。それはすでに美しいとはいえまだ蕾。その巨大な潜在能力が大輪の花を咲かせる時を世界が固唾を飲んで見守っている、そういう選手だ。

 ネット民のあいだでも当然のことながら好意的に受け止められてはいる。ただ、補強ポイントはそこではない、という意見もあるのである。確かにそうかもしれい。上野、谷口、中嶋、川島、立花、島袋、山口、大内、そしてもうすぐ怪我から復帰するであろう増矢、とそれぞれ特長は違っても攻撃的な選手は起用するには事欠かないのが現在の状態。だから優先順位としては守備的な選手をまずは入れたいところである。強化スタッフはなにかを間違えたのだろうか。もちろんそうではない。開幕戦で増矢を失ってからの得点力の不足はまことに深刻だったのだ。そして後半戦開始からは無得点で4連敗を喫して、もはや無策でいることが許されない事態となってしまった。おそらくこの時期からフロントは得点力アップを目指して補強を行うべく猛烈な活動を展開し始めたに違いない。そしてその成果が瀧澤千聖の獲得だった。しかしあに計らんや。そういうフロントの水面下での努力を知ってか知らずか、チームは真っ暗なトンネルを抜けて素晴らしい見晴らしの舞台へと出たのであった。そういう意味でフロントは、チームが劇的な大成長を遂げるという未来予測を見誤ったのかも知れない。だがそれは神のみぞ知る事であったはずで、嬉しい誤算なのだ。いやむしろチームがいずれは苦境から抜け出すことがわかっていたとしてもそれに保険をかける動きをするのがフロントの役割なのであって、すばらしい仕事をしたわけである。いずれにしろ来期はさらにチーム内の競争にエネルギーが加わることになり、大いに楽しみである。

 しかし本来であれば主力級の選手を補強するからにはやはり主力選手の放出・流出があるのだろうとする見かたができる。そうなると瀧澤千聖選手とかぶるのはポジション的にもプレースタイル的にもまずは中嶋淑乃だ。やはり中嶋がどこかに引き抜かれてしまうのかと不安にもなる。だが本人からは残留宣言が出ているようなので、当面その心配はしなくてよいらしい。そうなると次には上野が危ぶまれる。ストライカーの不在に悩むチームは多いので上野にはさぞかしオファーが殺到していることだろう。だがなんとかもう一年くらいは広島にいてくれないだろうか。いまはそれを祈るのみである。
 また長野については五嶋京香選手の移籍も伝えられている。瀧澤千聖もそのことは知っていただろうと想像するとその胸中の複雑な思いが察せられて余りある。だがきっと瀧澤選手であればそういう辛い思いもフットボールへの熱に変換できるだろうと思う。
 先にも書いたが長野とは来年も鎬を削る間柄でありたいと切に願っている。この点では長野を離れる選手たちと気持ちは同じなのである。

2022-05-23

2021-22 Yogibo WEリーグ 第22節 ■ S広島R 1−0 AC長野


 前半の終了間際、長野の三谷沙也加が負傷退場してしまった。これがこの試合のターニングポイントだった。
 前半は長野のハイプレスの強度がともすると広島を上回っており、双方ともに前線にボールを入れることができない展開となった。もし最終ライン付近でボールを奪われたら即失点のピンチになる。観ている側もヒリヒリするような恐ろしく緊張感の高い試合展開である。前節は大車輪の活躍を見せた小川愛がこの長野のハイプレスのため攻撃面で機能しなくなったのは衝撃だった。小笠原監督の術策にはまってしまった感があり、もはや絶体絶命なのかと青ざめたのである。カメレオンサッカー恐るべし。
 しかし38分、長野ゴール前の攻防で三谷沙也加が足首を痛めて負傷交代となる。広島の選手との接触ではないように見えたがどうなのだろう、いずれにしろ大事がないことを祈るのみである。そして程なく0対0のままハーフタイムとなった。
 後半が始まってこれまた驚くことになる。両チームともハイライン/ハイプレスのガチンコ対決だった前半とは打って変わって、双方が改めて相手の出方を探り合うかのような慎重な姿勢をとっている。両チームとも選手交代はないのに、これはどうしたことか。前半戦があまりにも激しい戦いであったがゆえに肉体も精神もスローダウンを求めたということかも知れない。しかし振り返ってみると三谷選手の退場以降はお互いが攻め込みあってチャンスを作るようになっており、それまでの均衡が崩れ始めていたとみることもできよう。三谷に変わって入った八坂芽依もハイプレスのハードワークはしっかり行っていたのだが、戦術の理解度や表現においては三谷に及ぶべくもなかったのか、そこはよくわからない。
 しかしともかく、長野のハイプレスが緩んでくれば、小川愛が自由に活動できる。小川が自由になれば柳瀬楓菜が輝きを増すのが今のレジーナだ。結果、押し込んでいく展開が増え、長野はロングボールに頼らざるを得なくなった。かくして大勢は決して、上野真実の頭の上にリフレクションのボールが落ちてくるという理屈では説明の難しい不思議なゴールが決まった。


 前回対戦は第9節、0−1で広島リードの90+2分に五嶋京香、90+3分に瀧澤千聖がゴールしてまさかまさかの大逆転。絶望の雰囲気が漂っていた長野Uスタジアムは一瞬のうちに歓喜のるつぼとなり、広島は眼の前が暗くなった。なぜこういうことが起こったのかは未だによくわからない。そして今節のこの展開である。それぞれその時点でのそれぞれの実力がそれぞれの結果を招じた、のかもしれないし、もはや実力に差はなく単なる運命の悪戯なのかも知れないが、どちらにせよ前節の新潟と同様、来期の対戦がどういう展開になるのか、楽しみでしかたがない。

GK福元美穂6.0長野にほとんどシュートを打たせないというみごとな結果を導いた。
RCB佐山桃子6.5股抜きを狙われて抜かせなかっただけでなく機転の効いたプレーが随所にみられた。
LCB中村楓6.5長野の決定機をブロックしたのみならず正確なフィードでチャンスメークもしていた。
RSB松原優菜5.5やはり左足のロングパスはこのチームにとって大きな武器だ。
LSB木崎あおい6.5ワクワクさせてくれる木崎あおいが戻ってきた。あのシュートが決まっていれば7.0。
DMF小川愛6.0前半は消えていた時間もあったが彼女が活きればチームが活きる。
DMF柳瀬楓菜6.0危険なミスもあったがそれを上回ってあり余る活躍。
RWG川島はるな5.5気の毒だが期待値がぶち高いのでその分評価点が常に下がってしまう。
LWG中嶋淑乃6.5再三のサイド突破もさることながら守備貢献度がとても高い。
OMF上野真実7.0得点王が取れるかもしれないという緊張を突き抜けたゴールだった。
CFW谷口木乃実5.5ポストプレーはどんどん上手くなっている。あとはフィニッシュするのみ。
RWG立花葉5.5目立つシーンこそなかったが可能性は感じさせてくれた。守備も良かった。
RSB塩田満彩6.0ロングスローからシュートの一連のプレーは見事だった。ロングシュートも打ってくれ。
LWG島袋奈美恵5.5時間は短かったが、中嶋の代わりに出ても遜色ない働きが期待できる。
DMF近賀ゆかり5.5この人が出てくればもう大丈夫という気にさせてくれる。

2022-05-07

谷口木乃実の成長

 このチームの特徴は「波」なのではないか、と思う。 

 第1節の対エルフェン戦は鮮やかな勝ちっぷりで世間を驚かせた。しかし第2節、まだ動きの良くない仙台に敗れるとそのあとさっぱり精彩がない。やはり増矢理花が戦線離脱してしまったダメージが大きすぎるのかと思いきや、第5節で昨年のチャンピオン浦和に逆転勝利してまた大興奮。

 これで波に乗るかと思ったが、そのあとまた勝てなくなり、第9節のAC長野戦ではアディショナルタイム最後の30秒で2点を失い勝点3が0になった。 

 その後のリーグ戦はいいところなく前半戦が終了。もうダメかと思ったが意外にも12月24日の皇后杯4回戦で波に乗る仙台に快勝してくれたので、リーグの後半戦に期待が膨らんで年を越した。 

 しかし後半戦が始まってみるとチームが壊れたかと思うようなありさまで4連敗。これ以上負けるとほんとうにチームが壊れてしまって、シーズン終了を待たずに監督解任もあり得るかと青ざめて臨んだ第17節相模原戦だったが、今度は胸がすくような完勝。


  続く第18節は前半戦で大敗を喫した相手大宮アルディージャVENTUS。どうなることかと思われたが、またまた快勝。ようやくホーム初勝利の歓喜。 

 このジェットコースタのようなアップダウンぶりは増矢理花が第1節で大ケガをしていなくてもきっとたいして変わらなかっただろう。やはりチームが若いのだ。

 選手の平均年齢ではどうなのかわからないが、チームとしては結成足掛け2年目、文字通りゼロからのチーム。だから個々の選手たちもそれぞれ存分に個性を発揮できる環境なのかもしれない。選手たちの個性が感じられるその姿は観ていて楽しい。心が踊る。いままで広島に関心のなかった人たちもレジーナを観るといつのまにか好きになるようだ。

 川島はるなのファンタジックなチャンスメーク、中嶋淑乃の独特なドリブル、小川愛のキックや展開力、立花葉のスピード、島袋奈美恵の躍動感、上野真実の落ち着き払った動き、などなど挙げていけばきりがない。こうした個性の発露がうまく噛み合った時、波は増幅して驚くほどの高さになる。けれども波には谷がある。それが自ずと成績に反映してくるのにちがいない。

 

 しかし前半戦では、こうした個性豊かな選手たちの中でひとり地味な存在がいた。谷口木乃実である。

 開幕以来中村伸監督はこの選手を重用してきたが、わたしにはその真意が解らなかった。その良さが掴めない。結果もさほどは残せていない。率直にいうと、いないよりはいい、くらいにしか思えなかったし、この程度なら他の選手を出させてあげれば良いのにとさえ思っていた。 

 ところが、である。チーム崩壊の淵にあった第17節相模原戦での彼女は違った。ボールを持てば勝負を仕掛けて、しかもその勝負に負けていない。ポストプレーも巧さを見せ中盤へのサポートも効果的だった。意外だった。新しい発見をしたと思った。 

 そうしたら第18節ホームの大宮戦での爆発である。半年前の地味すぎるFWの背番号13は別な選手に交代したのかと思うほどの変わりようであった。DAZNの解説を担当した大竹七未氏をして「なでしこJAPANの監督に観て欲しい」と言わしめるこの成長、これがサンフレッチェ広島レジーナというチームが持つ底力なのだろうと思う。後半戦開始からの4連敗はその産みの苦しみだったか。 

 谷口木乃実と同じタイミングでブレークした選手がもうひとりいる。その選手についてはまた別に書きたいが、この成長力こそがこのチームを高みに導くはずだ。今シーズンはまだ固まらないグラウンドの上で若いエネルギーがダイナミックに波打った。それが不安定な成績にもつながった。しかしこのチームは巨大なものを生み出しつつある、谷口木乃実の成長をみてそれを確信するのである。