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2022-09-11

WEリーグカップ第4節 N相模原 2−2 S広島R

 サッカーには劇的な試合というものが珍しくない。この試合もまさに劇的。84分間お互いに攻め手を欠いたというべきかお互いに良く守ったというべきか、ともかくも得点が生まれない拮抗した内容だった。
 しかし84分にステラ藤原加奈の見事なミドルシュートが炸裂したのを皮切りに最後の10分間で双方のチームに2ゴールづつが入るというそれまでとは打って変わった驚きの展開となった。

 とりわけ最後のステラのコーナーキックからの得点は不思議というほかはなかった。両チームの選手たちがGK福元美穂の前に密集する中、杉田亜未が蹴ったボールは約30度の角度でそのどまんなかに落ちてくる。ステラの選手たちはそのボールを押し込もうと思ったしレジーナの選手たちは弾き出そうと思った。それは確かだろう。しかし結果的には誰もそのボールに触ることができなかったのだ。まるでなにかの意志を持った生命体であるかのようにボールは地面に落ち、弾んでゴールの中に入っていった。杉田亜未のキックが素晴らしかった。それは間違えないのだが、10数人が密集しているにも関わらず誰もボールに触れなかったのはまことに不思議である。 
 



 ただ、こういう不思議な失点があったから勝てなかった、と言えるかというとそうではない。決定的なシーンが2つあった。
 ひとつめは28分、平野優花に広島側右サイドを抜け出されたシーン。たまたま平野がトラップミスをしてくれたので松原優菜が対応に間に合い事なきを得たが、平野のミスがなければGKとの1対1になるところだった。
 ふたつめは、左サイドを松本茉奈加に抜け出され上げられたクロスを中央で杉田亜未に頭で合わせられたシーン。数的不利はなかったにもかかわらず杉田は完全なフリーで、十分に首を振ってヘディングしていた。少し距離があったし正面でもあったのでGK福元もキャッチできたが、もしグラウンダーのクロスだったら強烈なシュートをもろに食らっただろう。
 いずれもショートカウンタを発動された形であるが、こうした守備破綻をなんとかしないといくら点をとっても勝てないということになってしまう。
 最後のワンプレーで不思議なことが起こったのは偶然ではなくて、サッカーの神様が勝つべき内容ではなかったぞと勝点3を取り上げたのかもしれない、そんな気がした。


GK福元美穂5.0守備連係の不備を修正していくことができるか注目したい。
RCB佐山桃子5.559分のピンチは裏返されてからマークの受渡しに失敗してのこと。
LCB中村楓5.0佐山が上がった先を把握していれば杉田をフリーにはさせなかったはず。
RSB松原優菜5.5地味ながら攻守に良い貢献ができている。もっと自信を持ってほしい。
LSB木崎あおい5.0気の所為なら良いのだが、溌剌とした感じがないのでやはり心配だ。
DMF小川愛5.5彼女の展開力はもはや欠かせない。怪我だけは気をつけてほしい。
DMF柳瀬楓菜6.0なんかおしゃれになってきたのか。その余裕でいけばゴールも決まる。
RWG川島はるな6.5守備面での貢献が素晴らしかった。シュートがすべて枠にいけば凄いことになる。
LWG瀧澤千聖5.5今回は危険な匂いがしていた。遠慮はいらないので暴れまくってほしい。
OMF松原志歩6.0やればやっただけの成果が得られている。続けていれば大きなチャンスが来る。
CFW谷口木乃実5.0惜しいシュートがあったとはいえやはりプレーが単純で淡白過ぎる。
OMF齋原みず稀6.0持ち味を発揮することはできていた。もっと速くもっと激しくいけ。
RSB島袋奈美恵5.5出れば必ず活躍してくれている。先発で観たいものだが。
LWG立花葉6.5持ち前のメンタルの強さで決めたゴールだった。チームを救った。

2022-05-07

柳瀬楓菜について

 藤枝順心高校で二年連続全国制覇を成し遂げた10番のキャプテンが、広島へ来てくれた。それを想うだけでもう胸がいっぱいになる。
 なぜ広島へ来てくれたのか、それはわからないが、きっと他のクラブからもオファーはあったはずだ。その中には相当有力なクラブもあったことだろう。でも君は広島に入ってくれて、そして瀕死のチームを救ってくれた。第17節の相模原でのことである。


 誰もが口にするその豊かな才能。けれども彼女を最初に観た時に私は特別なものは感じなかった。なんという不明か。恥じ入るほかはない。しかし今、彼女の身体をよく見れば判る。神様と呼ばれた男ディエゴ・マラドーナにそっくりなのだ。顔は似ていない、いや仮に似ていたとしても顔は関係ない。身体である。その特徴はここでは敢えて書かないでおこう。そういえばかつてサンフレッチェにも似た体格の選手がいた。前田俊介だ。僕らはその天才を未だに諦めることができずにいる。
 そんな彼女にはひとつ不思議なことがある。彼女がスルーパスを出す時、あるいはボールを奪いに行く時、その足が突然長くなるのだ。ピロピロ笛のように、長くなる。こんなへんてこな選手は見たことがない。前田俊介の足だって別に伸びたりはしなかった。

 最後に少し残念なことを書かねばならない。たぶん来年のリーグ戦で彼女は今と同じようにはプレーできない、ということだ。各チームは必死になって柳瀬楓菜対策をしてくるからだ。それを怠るチームは間違えなく広島にやられてしまう。だからどのチームも必ず柳瀬楓菜を研究する。その結果、彼女は厳しいスランプに陥ることだろう。そうなればレジーナもまた停滞の時期になる。でもかまうものか。今年と同じように新しい自分を獲得すればいい。そうすればまたブレークできるのだ。より大きく、より強く。

谷口木乃実の成長

 このチームの特徴は「波」なのではないか、と思う。 

 第1節の対エルフェン戦は鮮やかな勝ちっぷりで世間を驚かせた。しかし第2節、まだ動きの良くない仙台に敗れるとそのあとさっぱり精彩がない。やはり増矢理花が戦線離脱してしまったダメージが大きすぎるのかと思いきや、第5節で昨年のチャンピオン浦和に逆転勝利してまた大興奮。

 これで波に乗るかと思ったが、そのあとまた勝てなくなり、第9節のAC長野戦ではアディショナルタイム最後の30秒で2点を失い勝点3が0になった。 

 その後のリーグ戦はいいところなく前半戦が終了。もうダメかと思ったが意外にも12月24日の皇后杯4回戦で波に乗る仙台に快勝してくれたので、リーグの後半戦に期待が膨らんで年を越した。 

 しかし後半戦が始まってみるとチームが壊れたかと思うようなありさまで4連敗。これ以上負けるとほんとうにチームが壊れてしまって、シーズン終了を待たずに監督解任もあり得るかと青ざめて臨んだ第17節相模原戦だったが、今度は胸がすくような完勝。


  続く第18節は前半戦で大敗を喫した相手大宮アルディージャVENTUS。どうなることかと思われたが、またまた快勝。ようやくホーム初勝利の歓喜。 

 このジェットコースタのようなアップダウンぶりは増矢理花が第1節で大ケガをしていなくてもきっとたいして変わらなかっただろう。やはりチームが若いのだ。

 選手の平均年齢ではどうなのかわからないが、チームとしては結成足掛け2年目、文字通りゼロからのチーム。だから個々の選手たちもそれぞれ存分に個性を発揮できる環境なのかもしれない。選手たちの個性が感じられるその姿は観ていて楽しい。心が踊る。いままで広島に関心のなかった人たちもレジーナを観るといつのまにか好きになるようだ。

 川島はるなのファンタジックなチャンスメーク、中嶋淑乃の独特なドリブル、小川愛のキックや展開力、立花葉のスピード、島袋奈美恵の躍動感、上野真実の落ち着き払った動き、などなど挙げていけばきりがない。こうした個性の発露がうまく噛み合った時、波は増幅して驚くほどの高さになる。けれども波には谷がある。それが自ずと成績に反映してくるのにちがいない。

 

 しかし前半戦では、こうした個性豊かな選手たちの中でひとり地味な存在がいた。谷口木乃実である。

 開幕以来中村伸監督はこの選手を重用してきたが、わたしにはその真意が解らなかった。その良さが掴めない。結果もさほどは残せていない。率直にいうと、いないよりはいい、くらいにしか思えなかったし、この程度なら他の選手を出させてあげれば良いのにとさえ思っていた。 

 ところが、である。チーム崩壊の淵にあった第17節相模原戦での彼女は違った。ボールを持てば勝負を仕掛けて、しかもその勝負に負けていない。ポストプレーも巧さを見せ中盤へのサポートも効果的だった。意外だった。新しい発見をしたと思った。 

 そうしたら第18節ホームの大宮戦での爆発である。半年前の地味すぎるFWの背番号13は別な選手に交代したのかと思うほどの変わりようであった。DAZNの解説を担当した大竹七未氏をして「なでしこJAPANの監督に観て欲しい」と言わしめるこの成長、これがサンフレッチェ広島レジーナというチームが持つ底力なのだろうと思う。後半戦開始からの4連敗はその産みの苦しみだったか。 

 谷口木乃実と同じタイミングでブレークした選手がもうひとりいる。その選手についてはまた別に書きたいが、この成長力こそがこのチームを高みに導くはずだ。今シーズンはまだ固まらないグラウンドの上で若いエネルギーがダイナミックに波打った。それが不安定な成績にもつながった。しかしこのチームは巨大なものを生み出しつつある、谷口木乃実の成長をみてそれを確信するのである。