なぜ代表に呼ばれないのか、そういう声がある。川島はるなに惚れ込んでいるファンは多い。もちろん私もそのひとりである。でも私は彼女が代表に呼ばれない理由を知っている。代表監督にじかに訊いてみた、わけではない。完全なる推測である。単なる個人的推測ではあるが、おそらく間違っていないという自信はある。
川島はるなが代表に招集されないわけは協会幹部に嫌われているから、とかではない。もっと単純な理由なのだ。それはフィジカルが弱いからである。体格がでかい外国勢に負けないためには彼女のように小さくて細い選手では戦えないのだ。というと岩渕真奈はどうなのだ、長谷川唯だって小さいぞと反論されてしまいそうである。そのとおり。岩渕や長谷川は川島と体格的にはほとんど変わらない。もちろん国内からの招集メンバの中にも小柄な選手はたくさん存在する。では彼女たちと川島はるなの決定的なちがいはどこにあるのだろうか。ボールコントロールの上手さでは誰にも引けを取らないのが川島はるなである。
その答えは、自分はフィジカルが弱い、と思っているかどうかというところにあるのだ。もちろん岩渕にしても長谷川にしても自分は肉弾戦が得意だとは思っていないだろうし、冷静に判断すればやはりそこは弱点の一つだという自覚はあるに違いない。しかし少なくとも彼女たちは相手選手との接触を厭わないプレーができる。だが対する川島はるなはその点においてはなはだ物足りないのである。川島には人並み外れた足元の上手さがありプレーのアイディアも豊富にある。なのでガツガツと体をぶつけるプレーを回避しながらでもある程度のことはできてしまう。しかしそのプレースタイルでは代表に呼ばれないのは当然だ。フィジカルではたとえ勝てなくても少なくとも気持ちの上では上回っていてくれないと選抜の対象にはできないわけだ。ただ、代表には呼ばれなくてもチームの中心選手としてならそういうスタイルで十分やってこられた。今までは、である。ところがもはやそんな時代ももう終わってしまった。
広島に瀧澤千聖がやってきた。川島はるなにとっては太平の夢を破る黒船だ。同じリーグの他チームで10番を背負っていた選手が新加入してきたインパクトは測り知れず大きい。彼女のポジションを予想する中野さんの記事ではもはや川島の名はピッチ上から消え失せているのである。
そして瀧澤千聖が黒船である所以がもうひとつある。サッカーが変わったのだ。黒船はただ単に強いだけではない。黒船の黒船たる所以は世界情勢の変化を象徴しているところにある。その力はもはや個人のあがきなどでは抗うことのできない大きな流れなのだ。江戸幕府による250年間の天下泰平。その中にいた日本人は世界が激変激動していることなど気づかないで夢の中にいた。その夢を突如として浦賀に現れた黒い大きな船団が大砲の音とともに破ったのだった。
サッカーに話を戻そう。ハイライン・ハイプレス、これがこの春からのサンフレッチェのサッカーである。もちろんサンフレッチェだけのことではない。世界のサッカーがその徹底と完成を図って本格的に競い合いを始めたのが最近のフットボールである。具体的にいえば、攻撃的な選手は相手の守備ラインに襲いかかってボールを奪い取る、これができない選手は試合に出してもらえないのである。どんなに足元が巧くてもどんなにファンタジックなプレーができても、目の前の相手からボールを奪いにいかない選手はダメなのだ。瀧澤千聖はそういうプレーができる、いや、むしろそれが得意な選手である。
さて、川島はるなよ。目を覚ます時は来た。江戸の海にあらわれた黒船を見て日本人たちはみな震え上がりこぞって奴隷になったか。そうではなかった。新しい時代を切り拓くべく猛烈な攘夷倒幕運動が巻き起こったのである。
川島はるなよ、君はどうする。いさぎよく瀧澤千聖にポジションを譲ってサブにおさまって満足するか。それとも接触プレーをなるべく避けてきたプレースタイルをかなぐり捨てて新しいフットボールの体現者になるか。どちらかだ。後者の道は険しい。凡百の者には絶望的な選択かも知れない。でも君はファンタジスタ、サッカーの申し子だ。君のテクニックがあれば球際の魔術師にだってなんにだってなれるはず。そしてその地平が開けた時、今まで叶わなかった夢が叶うに違いないのである。
この映像を観るとこの歴史的な試合の立役者が誰であったのか改めて気付かされる。黒船に大砲を撃ちまくらせるためにも川島はるなの飛躍は絶対に必要なのだ。
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