2022-05-14

近賀ゆかりの大きさ

 オルカ鴨川はさぞかし彼女を手放したくなかっただろうと思う。近賀ゆかりはチームの顔なのである。中嶋淑乃にも戦力的には残ってほしかっただろうが、その意味では一介の若い選手に過ぎず、女子サッカーに関心のない人にとってみれば無名の人だという他ない。しかし近賀ゆかりはそうではない。彼女の名を知らない人でもW杯の優勝メンバーだと聞かされれば「ああ、あのときの……」となるのであり、とたんに見る目が変わってくる。鴨川は地理的な不利があるためこういうインパクトのある「顔」がどうしても必要なのだ。しかし近賀ゆかりになってみれば、現役選手である以上、プロリーグが発足するとなればそこに活躍の場を求めるのは当然だったに違いない。内心は忸怩たる思いもあっただろうと想うが鴨川を離れるのは已むを得なかった。 

 「顔」が欲しいという点では初年度の広島とて同じで、世間の耳目を引かなければ成功することができない。しかもその「顔」となる人が未だに現役選手だとなれば、チームの軸にもなれ、強化としても申し分なく、これ以上望むべくもない人材である。広島に来てくれたことに心から感謝する。そして彼女は「顔」としても選手としても大活躍をしてくれている。 

 私の認識は以上のものだった。しかしこの動画を観て彼女についての見かたが変わった。9分36秒からの数秒間である。


 積極的にアカデミーの選手たちの中へ入って彼女たちを表舞台に連れてくる、この姿を見て彼女の偉大さが初めてわかった。何気なく、ごくふつうに、日常的な雰囲気でこれができることが、このチームの雰囲気をどれだけ明るくしているか、計り知れない。 

 この日この時、近賀ゆかりが彼女たちに声を掛けなければ、彼女たちはトップチームの選手たちとともに同じ目線、同じ興奮の中ででメインスタンドを見上げることはない未来になっていたかもしれない。彼女たちはこの日ボールパーソンを務めた。その仕事は誰も注目しない裏方の仕事である。その裏方が裏方のまま家路につくのか、それともトップのプロ選手たちと一緒にメインスタンドへ挨拶したことを思い出しながら眠りにつくのか、その差はとてつもなく大きい。

 アカデミーについてはまた別に書きたいが、早ければ4年後、遅くても6年後にはアカデミーからトップに昇格する選手が生まれてくる、この映像を見てそう確信したのである。

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